google.com, pub-9160001738840823, DIRECT, f08c47fec0942fa0 うつぺでぃあ! 物語
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プロフィール

マッキー

Author:マッキー
鬱病歴約20年の
キモオタデブハゲヒキニート
様々な職歴と顔を持つ謎人間
最近は容姿・言動とも
仙人になりつつあるらしい

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Dragon blooD 第1部2章1節

2021-08-17

 時が過ぎ、雪が舞い散るころになって、仁は領主代行の叔父と共に、
屋敷近くの高台へ上っていた。

「どうだ、ここなら広くが見渡せるであろう」
「はい」

 あの池のほとりほどではないが、屋敷からの距離、
馬で来られる場所というのはありがたい。

「こちらが霧島領、あっちが蔵王領――」
「こっちが曽根崎領、あちらが武田領ですね」
「うむ。よく学んでいるようじゃな」

 叔父は周囲の様子を見ると、少し声を潜めて言った。

「この中に我が領内に攻め込もうとしているものが居る。判るか」

 仁は言われて目を皿のようにして周囲を見る。

 やがてある結論に達すると、安堵のため息をついて言った。

「風間領に攻め込もうとしている者は居りません」

「ほほう、それは何故じゃ」

「見える炊煙が戦支度とは思えぬほど細い。また数もまばらです。
すぐに戦ということにはなりますまい」

「ふわっははは」

叔父はその答えを聞いて大笑した。

「よく見たな。それでこそ領主の器よ」
「恐縮です」
「よし、冷えてきたし戻って酒でもご馳走になろう」
「はい」

 2人は馬を返し、そのまま屋敷へと走らせた。


 2人を屋敷で待ち受けていたのは、門前での騒ぎだった。
「何事じゃ」
 叔父が声をかけると、門番と押し問答をしていた男が向き直る。
「新領主と勝負がしとうございます!」
「何じゃと?」
「この風間領は父上が7年かけて治めてきたもの。
それを嫡男だからと横から出てきた馬の骨にかっさらわれるなど
我慢ならん!」

「口を慎め軍(ぐん)! 仁殿は儂の見立てにも立派な領主足りえるぞ。
今日はそれを確かめに参ったのであって武芸を競いに来たわけではない!」
「なら、確かめましょうか」

 事も無げに言った仁は馬から下りると、軽く構えを取る。

「仁殿! 倅を駆りたてるような真似はおやめ下され!
軍! そなたも早く詫びを入れぬか!」
「父上、やってくれるというのだから丁度いいではありませんか」
 軍と呼ばれた男――まだ青年だ――は拳をぱんぱんと叩きながら
仁に向き直る。
「やめんか軍! 仁殿も! 何を熱くなっておられる!」

「軍殿、何でやる? 刀、槍、戟、棒、それとも素手がよいかな?」
「武器を使って傷つけては大変だからな。素手でやろう」
「よかろう」

 仁は突如足元から立ち上ったような気合を発すると、改めて構え直した。

 軍はその突然の気配に圧されつつ構えた。


 2人は暫時動かずにいた。

 仁は余裕のある表情で若干前屈みに構え、軍は腰の高い構えだ。

「軍殿。早しないと日が暮れてしまうぞ」
「――なめるな!」

 軍は右横蹴りから左前回し蹴り、さらに着地からの右前蹴りで攻撃。
 仁はそれを読んでいたかのように右横蹴りをかわして死角に入ると、
左前回し蹴りを同じように回転してかわし、
右前蹴りの軸足を背後から低空蹴りで刈った。

 軍は自分の体に何が起きたのか判らないまま地面に転がされていた。

「まだやるかい?」

 にっかり笑う仁に、軍は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「うおおおおおおお……!」

 傍から見たら滅茶苦茶に拳を振るい、仁に向かっていく。
(まるっきり当たらねぇ! こいつはこんな強かったか……!?)

 しばらくすると、軍は自分で体力を使いきり、地面に伸びていた。

「妖術使いかてめぇ……」
 そう問われて仁は苦笑すると、軍に手を差し出した。

 だが軍はその手を弾いた。
「敵の施しは受けねぇ……。
必ず、必ず帰ってきてぎゃふんと言わせてやるからな。待ってろよ!」
「楽しみにしてるよー」
 にこやかな仁に見送られて軍は去っていく。
「どこへ行く気だ軍!」
「武者修行だよ! 暫く帰らねえから!」
 叔父ははぁ、とため息をついた。
「叔父上、大丈夫ですよ」
 仁はさわやかな表情で軍の背を見送った。
「風間領に将来強い武将が一人、加わることになった瞬間ですからね」

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Dragon blooD 第1部1章4節

2021-08-14

 池のほとり。

 逢いに来た仁に辰乃は話しだす。

「……私は人ではありません」

 言葉は途切れ途切れに、だが、はっきりとしていた。

 ある日、調子に乗って池に飛び込んでしまったこと。
 折悪しく仁がいて、巻き込んでしまったこと。
 自らの血を分け与え、命を繋ぎとめたこと。

「私は、龍です」

 辰乃はくるりと、仁に背を向ける。

「黙っていてすみませんでした。貴方との日々が楽しくて、
つい言い出せずに……。貴方を騙すことになってしまって……」

「騙されたなんて思っていないよ」

 黙って話を聞いていた仁が口を開く。

「俺も辰乃さんとの毎日が楽しくて会いに来てたんだし。
……夢じゃなかったんだなって」

 仁は後ろから辰乃を抱き締めた。

「何も間違ってないよ。辰乃さん、助けてくれてありがとう」

「仁さん……」

 辰乃は、抱き締める仁の腕をきゅっと握り返した。

 仁は腕の中の辰乃を自分のほうへ向き直らせる。

「辰乃さん。俺と、結婚して下さい」

「……はい……」

 見つめる仁に、辰乃は小さく、だがはっきりと首肯する。

 2人はそうして初めての口付けを交わした――


 龍賢族(りゅうけんぞく)――龍の血を受け継ぐ人類。

 目立たずひっそりと暮らしているが、
確かに存在するものとして認識されている。

 見た目は人間と違わないが、その膂力は人間のそれを凌駕し、知能も高い。

 その優れた力から人間からは忌むべき存在として知られ、恐れられている。

 仁は知らずのうちにその龍賢族になってしまった。

 辰乃とも相談した上で、仁は家人にも誰にも龍の血を受けたことは言わず、辰乃の正体も秘密にしようと決めた。

「ただいまー」

 辰乃を伴って屋敷に戻った仁は、奥に向かって声をかけた。

「お帰りなさい仁さん。――そちらは?」

「俺の結婚相手の辰乃さんだよ」

「辰乃と申します。宜しくお願い致します」

「貴方が――」

 母親は暫時、言葉を失ったように見えた。
 すっと息を整えると、口を開く。

「仁さん、客間にお通しして差し上げなさい」

「はい」

 母親はそのまま奥に入っていった。

「大丈夫。母上は敵意は持ってないようだ」

 悪戯っぽく小声でそう言うと、仁は言われたとおり、
辰乃を客間に通した。

 暫く2人で待っていると、母親は一人分の茶だけを持って入ってきた。

「仁さん、貴方は席を外しなさい」

「……分かったよ」

 仁は言われたとおりに席を外し、しばらく別間で待っていた。
 そわそわと落ち着かない様子で歩き回り、
意味のない立ち座りを繰り返す。

(辰乃さん大丈夫かなぁ……)

 別にとって食われるわけではないだろうし、
やりあえば肉体的には辰乃のほうが強いだろうから
心配は無用のはずなのだが、やはり気になる。
何の話をしているのかの想像はついているのだが。

「仁さん」

 急に廊下から話しかけられて思わず背筋が伸びる。

「な……なんですか母上」

「話は聞きました。結婚相手として認めましょう」

「本当ですか!」

 仁は思わず廊下に飛び出していた。

「貴方にしてはいい娘さんをつかまえてきたものです。感服しました」

 母親はそう言って小さく安堵のため息をついた。

「覚えてもらうことは多々ありますが、まあそれは追々……」

「はい!」

 領主の妻ということになるのだから、そのための教育は母親任せになる。

「貴方もあれだけの娘さんを娶るのですから、励むのですよ」

「はい! 母上!」

 仁はしゃきっと背筋を伸ばして応えた。

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Dragon blooD 第1部1章3節

2021-08-09

 木々が色付き、やがて木枯らしが吹く季節になっても、
相変わらず2人の逢瀬は続いていた。そんなある日のこと――

「仁さん」

 いつものように家を出ようとした仁を呼び止めた者があった。

「母上。どうされました?」

 既に靴を履き終え立ち上がったところだ。
靴は脱がずに向き直り、母親と正対する。

「お話があります。こちらへ」

 いつもと変わらぬ口調。だがその語気には有無を言わせぬ迫力があった。

 仁はため息をつきつつ靴を脱ぎ、母親の後に続いた。

 母親は仁を座敷へと招き入れると、障子をぴしゃりと閉じた。

 普段と違う様子を仁がいぶかしんでいると、正面に正座した母親が
唐突に切り出した。

「仁さん、見合いをなさい」
「はぁ!?」

 声が裏返っていた。

「――もう貴方も20と3つ。いつまでも叔父上に
領主代行をしていただく訳にもいきません。
妻を娶り、内外に貴方が一人前になったことを示さねばなりません」

「お言葉ですが母上、俺、いや私にはまだ
学ばねばならないことが山積みです。まして妻など……!」

「このところの貴方の様子は聞いていますよ。
必要なことなどもう二月もあれば充分でしょう。
しかるべき良家の御息女を迎え――」
「私には心を通わせた人が居ります!」

 ――暫時、時が止まった。

 思わず口をついてしまったが、仁はこの後をどう取り繕おうかと
視線を彷徨わせた。

(――何てことを言っちまったんだ俺は!? 
けど強ち嘘って訳でもないし……。
あれ? ということはもしかして……?)

 自分が言ったことで勝手に狼狽している仁を見て、
母親はため息をついた。

「――いいでしょう。一度その方をお連れしなさい」
「え!?」
「そういう方が居られたのなら、もっと早く仰れば宜しいものを……」
「あ……う……」
「出来ましたら一両日中に。宜しいですね」

 母親は固まってしまった仁を置いて座敷を出て行った。

 残された仁の頭の中はパニック状態だった。
(俺は何であんなことを……!? 
いや、でも好きなことは間違いないし……。
いやでも結婚ていうのは本人同士の気持ちが大事なのであって……あれ?)

 ふと、頭をよぎるもの。

(辰乃さんって俺のこと、どう思ってるんだろう……)

          ◆

 辰乃はおっとりしているようで、時折鋭い指摘をしてみせる。
今の自分の挙動不審ぶりを見れば、
一瞬のうちに心を見透かされそうに思えて、仁は大きくため息をついた。

「どうされましたか、若?」

 自室の軒先で項垂れている仁を見つけて、老人が声をかける。

 仁がひどくゆっくりとした動作で首を巡らすと、
老人の武道着姿が目に入ってきた。

「……稽古?」

 主語も述語もない問いかけに、老人は苦笑まじりに首肯した。

「このままでは若に抜かれるのも時間の問題ですのでな。
ところで今日はお出かけではなかったので?」

「あ~、ちょっとね」

「お見合いは気が進みませぬか」
「な……!」
「何でそれを、ですかな? 奥方様より御相談を受けておりましたゆえ」
「いつ!?」
「昨日の今頃でしたかな。若がお出かけのときでしたから」
「それなら教えといてくれても……!」
「口止めされておりましたゆえ」

 そう言って老人はニヤリと不敵に笑った。

「……謀ったな、爺」

「今の若には正直驚かされることばかりでしてな。
学問も武芸も、このままでは早晩、
儂の教えることなどなくなってしまいましょう。
そろそろ領主の座を継がれても宜しいのでは?」

「むぅ~……」

 前領主である仁の父が亡くなって7年になる。
その間は叔父が領主代行を務めていた。だがあくまで「代行」に過ぎず、
慣例に従えば領主の継承は嫡男である仁にしかできないことになっている。
 7年もの長きにわたって領主が不在というのも異例の事態であった。

「俺が領主にならなきゃダメか?」

 仁はぼそっと呟くように訊いた。

「領主にはなりたくないと?」

「そうじゃないんだ、けど……」

 自信がないんだ。その言葉を呑み込む。
 だが老人には途切れた言葉の続きがわかっていた。

「最初から物事を完璧にこなせる人間など居りませんよ。
それに若ならばできると思えばこそ、
儂は若を鍛えてまいったのですからな」

「……そうだったね」

 聞いたことがある。
仁の父とこの老人は同じ武道を学んだ師兄弟であった。
やがて領主になった父は、この老人に仁の教育を一任したという。
『こいつが器にないと思ったら、即見限ってくれていい』
という一言を付け加えて。

 だが老人は仁を見限ることなく、今に至っている。
それは裏を返せば仁に領主たる器があると、老人が見込んだということだ。

「……見込み違いってことはないかい?」

 人の苦笑まじりの言葉に、老人は真顔でかぶりを振った。

「いいえ。若は立派な領主になれましょう。
私欲に溺れず、領民のためを思う、立派な領主に。
……いや、是非ともそうなって戴かねば。
儂の目が節穴だったことになってしまいますからな」

 そう言って老人はからからと笑った。

 仁は肩をすくめながら苦笑いを浮かべる。

 仁は大きく息を吐いて立ち上がると、背筋を伸ばして深呼吸をひとつ。
「よし!」

 バン! と両手を腰に当て、肩越しに老人を見る。

「爺、俺決めたよ」

「ほぅ、何をですかな?」

 ニヤニヤしている老人に、仁もまた不敵に笑ってみせる。

「俺は領主になる。爺の言う『立派な領主』にね」

「これは頼もしいお言葉。では取り急ぎ見合い相手の選別をせねば」
「その必要はない」

 仁は笑みを浮かべたままきっぱりと言った。

「俺には、妻にしたい女性(ひと)がいる」

 そう言って仁は歯を見せて笑った。

 老人はその言葉に目を見開いて呆然としている。

 その顔を見て仁は思った。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔とは、
こういう顔を言うのだろうと。
 そう考えて一層可笑しくなった仁は腹を抱えて笑った。

          ◆

 事の次第を告げられた辰乃は戸惑いを露にしていた。

 突然の結婚話ともなれば慌てるのも当然だ。

 しかし辰乃自身は喜んでいた。が、何かを気にする素振りを見せている。

 何かあるのかと仁が質しても、かぶりを振るばかり。

 気まずい沈黙が2人の間に流れる。

「明日――」

 辰乃がその沈黙を破った。

「明日また、ここでお会いしましょう。そのときに全てを――」

「解った。じゃあ明日また、ここで」

 仁は踵を返し、池のほとりから立ち去った。

 暫く下って振り返ったときには既に辰乃の姿は見えなくなっていた。

 仁の心の中に、今までの辰乃との会話が浮かび上がっては消えていった。
 
 彼女は自分のことは余り話したがらない。
 家族は兄が一人、両親は遠く離れた場所にいるという。
 名は辰乃――。だが苗字は? 教えられていない。

 あまり外に出たことがないと語った彼女は、
人間の暮らしにひどく興味を持っていた。

 だから多くの場合、話をするのが仁、聞くのが辰乃という役割が
自然と出来上がっていたのだ。

(俺は彼女のことをどのくらい知っているんだ? 
或いは彼女は俺のことなんて――)

 不安が徐々に心を占めていく。

 仁はそれを振り払うように頭を振ると、早足で山道を下っていった。


 立ち去る背中を木の陰から見つめていた辰乃。
仁の姿が見えなくなると、その木に背を預けてもたれかかり、
深いため息をついた。

 その姿を池の中から見つめる双眸があった。

 紅く血の色に輝くその目と視線を合わせ、すぐ逸らす辰乃。
彼女はその存在に気づきながら、全く意に介していない。

『どうするつもりだ?』

 紅き双眸が辰乃に問い質す。音ではない。頭の中に直接響く『声』。

「私は――」

 辰乃は何かを言おうとして、だが言えずに俯いてしまう。

『おまえの気持ちは判っている。あの人間といるときのお前は、
良い表情(かお)をしている』

 辰乃は応えない。
         ・・・・・・・・・・・
『あの人間はお前を人間だと思い込んでいる。
正体が判った時どう対応するか……楽しみだ』
「兄様っ!」

 辰乃が双眸を睨みつける。その瞳は双眸と同じ血の紅に染まっていく。

『フン……明日話すつもりなのではなかったか?』

 その言葉に辰乃は視線を逸らして地を睨む。

『隠し通すことも不可能ではあるまい。最も、それも時間の問題だろうが』

「――私は……」

 辰乃は目を伏せて呟くように言う。

「あのひとが好き。だからこそ欺きたくない。これ以上……」

『だがそれによってあの人間がお前を嫌う可能性もあるが?』

「……解っているわ。それでも憂いを抱えたまま過ごすよりは……」

 双眸はやれやれといった風に目を伏せる。

『お前の全てはお前のものだ。俺が手を出す領分ではない。
選ぶのはお前だ』
「兄様……」
『自らの責は自らが負う。これが摂理だ。
どのような結果になろうと後悔だけはしないことだな』

 それだけ言うと双眸は池の中深く沈んでいった。

 辰乃はその言葉をかみ締め、力なく微笑んだ。

「ありがとう、兄様……」

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Dragon blooD 第1部1章2節

2021-08-06

 それから3日。

 昨日まで続いていた微熱も下がり、青年は爽快に目を覚ました。

 体中に力がみなぎるような感じがして、思わず軒先で体操などしてしまう。

「おお若、お加減はいかがですかな?」

「おはよう爺! 以前よりいいくらいだよ」

 にかっと笑う青年に、老人も微笑みつつ頷いてみせる。

「それは重畳。ではまた今日より、お勉強を再開しますぞ」

「そうくると思ったよ。今日は気分がいいから受けて立つよ」

「ほほぅ。ではお食事を済まされましたら伺いますからな。
逃げずにお待ち下されよ」

「受けて立つって言ったろ? 手ぐすねひいて待ってるよ」

「結構。容赦しませんぞ」

 老人はいつもと違う態度を見せる青年に半ば疑いの目を向けつつ、
その場を後にした。

 だがその数時間後、老人は目を丸くした上に
開いた口がふさがらない状態になった。

 青年は老人が来るのを正座して待ちうけた上、その日の予定を
普段の半分の時間で終えてしまったのである。

 翌日も、翌々日もそれが続くと、老人の疑念は確信に変わった。
若は生まれ変わったのだ、と。

 青年のほうは特に自分が変わったとは思っていなかった。
 老人が教える内容が易しくなったのだと解釈していた。

 だが妙なことに気づいた。
 鍛錬していないのに力がついているのだ。

 見た目は特に変わったように見えないのだが、相撲をとれば連戦連勝、
雑巾を絞ってみれば水分がなくなるまで絞れてしまうし、
走っても跳んでも、今までの自分とは比較にならない。

 その原因について、青年にはひらめくものがあった。

 ――あの女性だ――

 あの女性の血が黄金色の光を放って自分に注がれたとき、
力が宿ったのではないか。

 ――もう一度――

 会って確かめたい。いや、会いたい――

 再びあの女性のことで頭がいっぱいになっていた。

 その日の課題を易々と終え、最早家人の誰も
青年を止められる理由が思い当たらない。

 青年はさっさと屋敷を飛び出し、一目散に神社の裏手へと向かった。

 神社の者たちにも見つからないように、さっと雑木林の細道に入る。

 そうして池のほとりに出ると、青年は周囲を見回した。誰もいない。

 青年は暫く周囲を探してみたが、人の気配はない。

 そもそも青年が登ってきた道以外にこの池のほとりへ
出られる道があるとは聞いたこともない。

「ただの……夢、だったのか……?」

 自問するように呟く。答えてくれるものはなかった。

 青年は木陰に横になると、そのまま眠りに落ちていった。

 結局夕刻まで眠りこけてしまい、ため息をついて家路に着く。
 そんなことが数日続いたある日のこと。

 いつものように池のほとりにやってきた青年は、
木陰に誰かいるのに気がついた。

 物陰に隠れて様子を伺うと、その人物は木の根元に腰を下ろして
少し顔を俯き気味にしている。

 少し近寄ってみても青年に気づいた様子はない。
どうやら眠っているようだ。

 その女性は長い髪を無造作に垂らし、すーすーと軽い寝息をたてている。
本当に気持ちよさそうだ。

 見知った顔ではない。どうやら屋敷の者ではないようだ。
ということは青年を待ち伏せしていたという線はなさそうだ。

 ほっと安堵のため息をついたとき、女性の目が開いた。
 すぐ側に立つ青年に気づいて少しそのまま後ずさる。

「あっ、起こしちゃった? ごめん」

 青年はそういってぽりぽりと頭をかいた。

「でも俺以外に昼寝してる人がいるとは思わなかったよ」

「――昼寝……?」

 女性がきょとんとした顔で呟く。

「ああ、今眠ってたろ? 凄く気持ちよさそうだったのに
起こしちゃって悪かったね」

 青年は苦笑しながら頭を下げた。

 女性は優しげな微笑みを浮かべると、ゆっくり口を開いた。

「よく、ここでこんな風にしてらっしゃる方がいらして、
どんな気分なのかと思って……」

「へぇ……って、それ俺のことじゃない?」

 女性はもう一度微笑んだ。青年もつられて微笑む。

 ――この女性(ひと)、どこかで……?――

 会ったかな、と思うものの、思い出せない。

 あの女性と似ている気はするが、髪の色が違う。
誰かに似ているだけだろうか。それとも――

「どうか、なさいました?」

 言われてはっと我に返る。

「いや、どこかで会ったかな、と思ってさ」

 苦笑まじりに言うと、女性は少し視線を泳がせた。が、すぐに戻して。

「おかしな方……」

 と微笑んでみせた。

「君、名前はなんていうの?」

 青年に尋ねられて、女性は少し考えるように視線を泳がせた。

「私、辰乃(たつの)と申します……」

「辰乃さんか。いい名前だね。俺は仁。
風間仁(かざま じん)っていうんだ」

「仁……」

 ぽつりと呟くように繰り返す辰乃。
何か言い聞かせるような口調にも聞こえた。

「宜しく。辰乃さん」

「……はい、こちらこそ」

 2人はそれから毎日、ここで逢うようになった。

 仁にとって辰乃は友人感覚で接することができる初めての女性だった。
身近な女性は皆自分とは距離をとっていた。それは仁との立場の違い、
という意味もあっただろうが。

 もうひとつ仁が魅かれたのはその雰囲気だ。
 細い身体、柔らかな物腰、言葉遣い……
だがそれら全てに「儚さ」という共通項がある。

 そこに存在しているはずなのに、まるで幻のようなおぼろげな……
夢の中の登場人物を思わせる感覚を備えていた。

 やがてそうして辰乃のことを思ううちに、仁の心の中からは
あの女性のことは薄れ――やがて消えていった。

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新作「Dragon blooD」

2021-08-03

 果てしなく広がる宇宙の片隅にある惑星。
 数々の奇跡がその星に生命を生み出した。

生命は少しずつ、だが確実に進化を遂げ、
その過程で枝分かれしていった。

 あるものは水中に、あるものは地上に。
あるものは空へと、生きる場所を求めた。

 やがてその中でも弱いものは淘汰され、
環境に適応できないものは滅んでいった。

 数え切れないときを経て――星は多種多
様な生物たちによって満たされていた。

 哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類、魚類、
昆虫類、妖精族、巨人族、龍族……幾千万
の種族がその営みを繰り広げた。

 そして更なる時を経て、人間が誕生した。

 人間は道具を用い、他の生物たちよりも
優位に立った。

 他の生物を狩り、住処を奪い、あるもの
は種を絶やされてしまうまでに……

 やがて人間は社会という仕組みを作り、
そこでは人間の中で上下、優劣が作られた。

 そして社会の頂点に立ったものによって
国家が誕生した。

 しかし栄枯盛衰は人間の世の常。
 国は麻のように乱れ、やがてその中から
いくつもの小国家が興り、消えていった。

 人間はやがて己が欲のために人間同士で
争うことを覚えた。

 あるものは正義を、あるものは大義を、
あるものは信ずる神の名を掲げて相争った。

 血の赤に彩られた歴史を重ねること幾星霜。
乱れた世は多くの英雄俊傑を生んだ。

 大陸の片隅の小国。黒い髪と黒い瞳、同じ
言葉を話すこの国の者たちは、小さな国を
さらに細かく分け、それぞれが独立した社会を持ち、
或いは交易を行い、或いは覇を競い合った。

 いつの世も争いの種は絶えることはない。
 欲し、奪い、妬み、欺き、憎み、殺し、
血は流され続ける。

 そして、短い一生の中で己の愚かさに気づくことなく
時は流れていく。

新作「Dragon blooD」乞うご期待。

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